「…なぁ
アンタが今まで、どんな人生を歩んで来たのか知らないが…
この世界はな、最高に面白いぞ
ただ、アンタが気付いてないだけでな…」
「…なに?」
「その最もいい例が、他ならぬアンタだ」
「私…が?」
「そうさ、たった一人で、あろうことか世界を変えようなんて大それたことを考える馬鹿…
こんなのが生まれて来る世界だ、恐ろしく面白いところだよ、ここは」
「!………」
一輝は、頭をハンマーで殴られたような、鳩が豆鉄砲を喰らったような、とにかく、とても愉快な顔で驚いた。
そして…
「ク…ククク…
アアーッハッハッハッ!!」
一輝は、純粋に腹の底から笑った。
爽やかに笑う一輝の顔は、響子の瞳には実際の年齢よりも若く映った。
貫の拳か、響子との会話か、あるいはその両方の力によってか、一輝は“何か”から解放された。
彼もまた、誰かが指すチェスの盤上の駒の一つに過ぎなかったのかもしれない。
「どこかに身を潜めておいた方がいいぞ…
そろそろ、私の仲間達がここに来る頃だ
………っ!
もう立てるのか?」
立ち上がり、ヨロヨロと歩き出す一輝。
「腹の底から笑ったら、なんだか身体が軽くなったよ…
できの悪い息子だが、どうか、よろしく頼む」
「ああ、任せろ
どこに出しても恥ずかしくない、立派な男に育ててやるよ…」
フッ、と、僅かに笑い、一輝は階段をフラフラと下って行った。