ヒュッと呆気なく、二人は同時に拳を繰り出した。
ただただ純粋な静寂の中、互いに互いの顔面を殴打する。
既にパンチではなく、押し合い。
二人の力は完全に互角。
全身の力を使って全力で押し合っているのに、微動だにしない。
しかし、やはりここでも地力の差が出たのか…。
徐々にだが、貫の身体が押されていく。
一輝の心の中には、誰にも負けないという絶対の自負がある。
徐々に貫を押し込むに連れ、一輝は勝利の確信をより深いものにしていく。
その時、顔面を殴られながらも、貫が口を開く。
「さっき、名は体を表すと言ったな?」
「何?」
「オイの名前は…貫
全てを刺し貫く、無敵の矛!!
アンタの抱いている自信…
アンタの抱いている妄念…
そして、アンタが抱えている絶望…
全て…
全て!
オイの意志で!
拳で!
打ち貫くっ!!!」
劣勢を挽回し、完全に押し勝つ貫。
一輝の顔面に打ち込んだ拳を、一輝の身体ごと床に叩き付けた!
全力を出し切った貫は、そのままその場で倒れ気を失う。
貫の全てを込めた一撃を受け、一輝の意識が薄れてゆく…
『男の子よ、あなた
ね、抱いてみて』
『………こんな私にも、何かを遺すことができるとは…』
『ね、名前、何にしよっか?』
『そうだな…“とおる”
貫くと書いて貫はどうだ?』
『貫?』
『ああ、己の意志を最後まで貫ける存在に育って欲しい
そういった気持ちが込めてある』
『貫…いい名前やね
フフ、この子に、あなたの気持ちが伝わったらいいわね』
『ああ
…貫、強い男に育てよ』
………
「………真矢
貫は、私達の息子は、強い男に育ったぞ」
一輝は夜空を見上げそう呟き、涙を流しながら眠りについた。