美柑の超馬鹿力で顔面を殴られながら、匠は優しく、しかししっかりと、美柑の身体を抱きしめる。

「なっ!?
馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!
早く離れて!
逃げてよ!」

「離しません」

ジタバタと暴れる美柑。

彼女の腕が、足が当たる度に、匠の身体が壊れていく。

骨折、裂傷、打撲、見る間に怪我が増えていく。

「ほら!
どんどん怪我してる!
無理だよ!」

「無理なんかじゃ…ありません」

美柑の暴れる衝撃で、美柑に刺された、塞がっていた脇腹の傷が開く。

「いや…
お願い、逃げて…
このままじゃ…
私…タカさんを殺しちゃうっ!!」

「構いませんよ」

「えっ?」

「貴女になら、殺されても構いません」

「私が死ぬことで、貴女が助かるのなら…
私は、喜んでここで死にましょう」

匠は、どんな時でも変わらない。

いつものようにエレガントな微笑を浮かべ、優しい瞳で、美柑を見つめる。

「ホラ、駄目でしょう
女の子はオシャレに気を遣わなくては」

そう言って、胸ポケットから取り出した桃の花、美柑の髪にそっと添えた。

「タカ…さん…」

動きを止め、ポロポロと、涙を零す美柑。

「うん、綺麗ですよ」

匠の、無償の大きな大きな愛情に包まれて、黛一輝に与えられた呪縛から、美柑は今、解放されたのだ。

「…おやおや、泣くのはおよしなさい
貴女は、笑顔が似合う」

「エヘヘ…キザ過ぎ…
そのセリフ」

涙を指で拭う匠、のしかかって来る美柑を抱いたまま、地面に寝転ぶ。

二人で並んで大の字に寝、騒音の中、夜空を見上げる。

「少し…疲れましたね」

「…うん、このまま寝ちゃおっか」

「…そうですね
少しだけ、寝ちゃいましょうか…」

「………うん」

二人揃って静かに目を閉じる。

眠りながらも、しっかりと、二人の手は握られたままだった。