「う………ガハッ!」
口から血を吐く美柑、彼女の目から、鼻から、耳から、穴という穴から血が噴き出し始める。
心臓もまた、普段以上の働きをし続ける為、身体中に流れる血液の速度は凄まじい。
その速さに、毛細血管は破れ、内臓という内臓がくたびれ出す。
「………美柑!」
匠にも、美柑の身体に起こっている事態が理解できた。
既に壊れきった身体を無理矢理動かしている為、動きにキレがなく雑になっている。
近寄りさえしなければ、匠の身の安全は保証されるだろう。
美柑の自滅という結末を迎えて…。
しかし、そんな展開は、匠の望むものではない。
真に婦女子に優しくする紳士として、美柑の上司・保護者として、そして、鷹橋匠という一人の人間として、そんな選択は許されない。
「っ?!…
…タカ……さん?」
立ち止まり両手を広げる、マラソンランナーをゴールで待つように。
匠は、いつものエレガントな笑みを浮かべる。
「美柑…おいでなさい」
「馬鹿っ!
逃げてタカさんっ!」
美柑の意思に反して、匠に跳び掛かる美柑の身体、踏み込んだ瞬間、ブチブチと、足の筋肉が、腱が、ちぎれる音が聞こえる。
十分に助走を付けて、体重の乗った美柑の拳が…
メギャリ!という、鈍い音を立てて、匠の身体を襲った。