最後の小柄な男の構えは、完璧に左前の真半身、両腕を畳み込んで縮こまった骨法独特の構え。

左腕で前面を守り、右腕で心臓と水月を守る、超実戦向きの構えだ。

骨法…1000年以上も前から存在するとされ、日本最古の武術と言われている。

骨法の“骨”とは、すなわち現代で言う“コツ”のことだ。

ちょっとしたコツ…等と言われたりするように、現代では割りと簡単な技術にでも、コツという言葉が使われるが、骨法で言うところのコツ…すなわち骨とは、物事の本質・核心を指す。

骨法とは、それら核心に触れる技術を集めた集合体なのだ。

「………ヘヘっ」

口許を歪め亮が笑う。

構えの流麗さ、纏っている空気、そして何よりも、歴戦を戦い抜いた、強い者を嗅ぎ分ける己が嗅覚。

つまりは直感が、突然現れたこの三人が、紛れも無い達人達であることを伝えてくれる。

これから起こるであろう素晴らしい喧嘩に、胸躍らせ武者震いする。

 
グッ、と、踵を浮かせ重心を低くし、襲撃に備える亮。

完全に頭の中で、喧嘩以外のことが考えられなくなりかけたその時…

「……リョー……」

「っ!」

隣にいる少女が、泣きそうな顔で自分の名前を呼ぶ。

危うく、頭の中で入り掛けたスイッチを戻す。

(…危ねぇ危なぇ
何やってんだ…俺は…)

自分がもう、好き勝手喧嘩していい立場ではなくなったことを思い出し、戒め…と、自分で自分の頭をコツンと小突く。

強くなる為の戦いではなく、守る為の戦い…。

それを胆に銘じて、亮は大きく深呼吸をする。

「…ワリィなアンタら…
アンタらの相手は…」

片手で少女を持ち上げ小脇に抱え…

「また…今度だ!」

ダッ!と大きく跳び上がり、信号を足場にし、やや低めのビルの屋上に跳び乗る。

屋上から屋上へと、シュパパパと機敏に跳びはねて、亮は逃げて行った。

「逃げた…追うぞ!」

背広姿の男がそう言うと、三人は弾かれたかのように駆け出した。