「………」
「………」
「………」
「………」
無言で見つめ合う二人。
率直に言って、男は困っていた。
連れ去る人物が、男のイメージ通りであったなら、気絶させるなり、縛り上げるなり、無理矢理にでも連れて行くことができたのだが…。
それがこんな、軽くつつくだけでバラバラと壊れてしまいそうな儚い少女が相手となると、そうはいかない。
なんとか上手いこと説得して、ここから連れ出さなければならない、男はそう考えた。
そして、それは男の最も苦手とする分野だった。
「あ…あ〜〜〜その、なんだ…その……アレだ」
「………」
一体何が面白いのか、男の目をひたすら無言で凝視し続ける少女。
「あ……う…」
無垢な瞳の視線を浴び続け、なかなか思うように声が出ない。
屈強な男100人が相手でも、決して怯まないであろう男だが…。
こんな小さな少女一人を相手にして、面白い程にオドオドと尻込みさせられていた。