「いいか…貴様は“石”だ
私の計画達成の踏み台に過ぎない…
石は何の意思も持たず
ただ黙って、ただ何も考えずに私の言うことを聞いていればいい…わかったな?
不要な感情等捨てろ!」
「………はい」
少女の顔から、再び感情の色が消える。
それを満足そうに見下ろす男。
「計画の実行はすぐだ
準備しておけ
自分の役割はわかっているな?」
「………はい」
「クツクツクツ
結構、それでいい」
くぐもった低い笑い声を上げ、男の眉間と口元がようやく緩む。
「………お父様」
「………なんだ?」
苛立たしげに、また不機嫌そうな顔で聞き返す男。
「私は…石
お父様の計画成就の為の、踏み台…」
「そうだ
わかっているではないか」
「石は感情を抱かない…
それは…わかる」
少女は男と目を合わせない…いや、合わせられないのだ。
強烈な意志力のある男の目を見ると、何も話せなくなってしまうからだ。
「最後に…一つだけ…ワガママを…許して…」
「………」
「石は…お父様の名前が知りたい…」
「名前…か
私という存在を定義付ける言の葉…
本来ならおいそれと口にすべきではないのだが…
貴様の最後の望みだ、無下にする訳にはいくまい…
………
私の名は、黛一輝(まゆずみ かずき)…
この名を胸に抱き、石としての役割に徹しろ…」
「黛…一輝」
少女は自分に言い聞かせるように反芻する。
「さぁ、これで駒は揃った…
クツクツクツ、始めるぞ…大リサイタルだ!」
………