重苦しい音を立てながら、唯一の出入口である鋼鉄の扉が開く。

ギギ、ギイィィィィ〜…

少女の顔に、やや驚きの色が浮かぶ。

今は、食事の時間でもなく、入浴の時間でもない。

それ以外の理由であの扉が開く等、滅多にないことなのだ。

「………っ!」

少女の小さな瞳が、驚きで一瞬大きくなる。

「…久しぶりだな」

「お父様!」

嬉しそうに、まるで主人の元に馳せる忠犬のように、少女は小走りで駆け寄る。

少女が父と呼んだ男は、一言で言うと黒かった。

黒の短髪。
やや浅黒い肌。
真っ黒な瞳。
黒のロングコートを纏い。
黒い長ズボンを履き。
黒い革靴を履き。
黒いバンドを巻いている。

外からは見えないが、おそらくは下着までも、黒で統一されているのであろう。

常に眉間に皺を寄せ、常に苦虫を噛み潰したような顔をしている男が…

「ご苦労だったな…
先日、貴様の能力値が規定の値をクリアーした
クツクツクツ
これでようやく、計画を実行に移せる…」

喜びを隠しきれないといったていで、珍しく、“ハイ”になっている。

「私…お父様の役に立つ?」

「ん?ああそうだとも!
役に立つどころではない…貴様がこの計画の要だ…」

「…よかった」

微かにだが、安堵の表情を浮かべる少女。

可愛らしい、少女の少女らしい微笑を、男は一転、気に入らなそうに見下す。

「…私のことを何と呼ぼうと貴様の勝手だが…
私にとっての貴様は、計画を成就させる為の道具に過ぎん
勘違いするなよ」