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中国にある、とある洋館の一室で、黙々と修行を積む二人の人影があった。
「覇ぁっ!!」
そのうちの一人が気合いと共に、タンっ!と一足で、かなりの距離を移動する。
「…よし、そう、それが活歩だ…
その歩法で相手との距離を一瞬にして潰すことができる…」
もう一人の男が、静かに腰元で拍手をする。
「これで貴様の拳は、駿速の大爆発に!
さながら、ミサイルのような破壊力を持つことになる
…遂に会得したな、よく頑張った」
常に不機嫌そうな表情の男にしては珍しく、慈愛に充ちた瞳で穏やかに微笑む。
「はい、ありがとうございます…師父」
弟子は師の前にひざまづき、包拳礼をし両目を閉じた。
「フム、この10年…本当によく頑張ったな」
「……師父…」
「貴様には、私の持つ技術の全てを叩き込んだ
脆弱な燕でしかなかった貴様が、今はもはや一頭の小さき龍
貴様は王者を名乗るに相応しい存在となった、胸を張っていい」
師はかしづく弟子の肩に手を置き、弟子は師を見上げた。
「…はっ、勿体ないお言葉です」
「いずれ、貴様の力を借りる時が来る
合図はこちらで出す、その時まで、日々修練を忘れるな…」
「はい…あの…師父」
「…なんだ?」
立ち去ろうとした師の背中に弟子が声を投げ掛け、そして足を止めた。
「一娼夫でしかなかったこの己(おれ)を導いて下さったこと、本当に感謝しています…
ですが、10年もの月日を師父に師事して於きながら、未だ師の名を知らぬのは甚だ遺憾にございます…
最後に、師父のお名前を己にお聞かせ頂けないでしょうか?」
「名前…か
私という存在を定義付ける言の葉…
本来ならおいそれと口にすべきではないのだが…
貴様は私の大事な弟子で、同志だ
答えておくのが誠意というものだろう
私の名は………」
………