「失礼…少しいいかな?」
「………なんだい?」
とあるパン屋の裏口が面している路地裏で、ゴミ捨てをしている金髪の男に、一人の男が話し掛ける。
「ジャルーム・ド・サンド君だね?
30代続いている名門サンド家の現当主…」
「………ウィ、確かに
それは私の名前だが、私に何の用だい?」
「クツクツクツ
君に仕事の依頼をしに来た…
調べさせて貰ったよ…
表向きは単なる貴族として振る舞っているサンド家だが、一子相伝で引き継がれている“ある技術”のおかげで、むしろ裏の世界で名が通っている…
…その技術とは…」
「すまないが!」
男の言葉を遮る金髪の青年。
「すまないが…
私はもう“殺し”はやめた…
今は…街の小さな、しがないパン屋の親父だ」
「クツクツクツ
よく言う…」
くぐもった低い笑い声を上げる男に対して、青年はあからさまな嫌悪の表情を浮かべる。
「………何がおかしい?」
「いやいや
確かに…君はもう殺しの依頼は受けていないし
実際、ただのパン屋として生活しているのだろう…
が、その一見痩せ過ぎとも取れる、極限まで鍛え抜かれた肉!
毎日の鍛練を怠っていない証拠だ…」