「そろそろ、次のお店に行きましょうか
果物ばかり買うわけにもいきませんからね」

「……うん
あ、タカさん、最後にコレ買おう」

少女が指差したのは、オレンジ色の丸い果物。

「オレンジですか
好きなんですか?」

「“おれんじ”って言うんだ、へ〜…
うん、私“おれんじ”好き!」

瞳をキラキラさせながらねだる少女、フルーツが好きな辺りやはり女の子なんだなぁ、と男は思いながら…

「じゃあ…コレ下さい」

「あぃよっ!まいどありぃ」

「やった!」

娘におもちゃを買ってやる父親のような気持ちで、男は大量のオレンジを購入した。

意気揚々と足取り軽く、二人は果物屋を後にした。

………

「…オレンジ、お好きなんですね」

「…うん
小さい頃に初めて食べた時、なんて美味しいものがこの世にはあるんだろう!
…って、感動したの」

「そうですか…
私の国には、オレンジに似た果物で、蜜柑というのがあります」

「“みかん”?」

少女は小首を傾げた。

「そうですね、これよりも少し小さくて、酸味が少なく甘めです」

「へぇ、美味しい?」

「えぇ、私はオレンジよりも蜜柑の方が好みですね」

「そうなんだ
…食べてみたいな、みかん」

そう言って少女は、つい先程買ったばかりのオレンジを一つ、手の上で転がした。