◇

「戦車と肉弾戦なんて…
何考えてんの、あいつ、馬鹿じゃない?」

見張り台に立つ少女が、面倒くさそうにそう呟く。

「戦車…ですか
なかなか面白い展開になって来ましたね…」

タキシード姿の男が、白手袋を着け直しながらそう言う。

「行きましょう」

「行くって…どこに?」

「決まっているでしょう?
私一人では砲撃まで手が回りませんから、一緒に来て下さい」

少女の腕を掴み、引っ張る男。

「あっ、ちょっ、ちょっと」

「いいから、行きましょう
たまには、彼のように馬鹿になってみるのもいいものですよ?」

「!………」

ニコッ、と、男が見せたエレガントな笑みを目の当たりにして。

そして、久しぶりに感じる他人の体温に、少女は、何も言えなくなってしまった。

それは俗に“照れる”と言われる感情なのだが、少女には理解できなかった。

まるで手を繋いだ恋人同士のように、男と少女は二人並んで、見張り台から下りていった。