「亡くなった方を心から想う、君の優しさは美徳だ、素晴らしいものだよ
だがな、いつまでも死者に縛られていては、前へは進めん
よく考えろ、何を最も優先すべきか…
“君の、1番大切なものはなんだ?”」
「っ!!!……………」
健二郎の中に稲妻が迅る。
「そうだ…
僕は…
僕の………
僕の1番大切なものはっ!!」
「行けぇっ!
会社のことなど気にするな!
おまえの行くべき場所へ行け!
大切な人の元へ行けっ!!
もうあれこれ考えるな…とりあえず、走ってしまえ!」
「………
奈津子ーーっ!!!!」
なにもかも…なにもかも全てを振り切って、健二郎は走り出した。
愛しい人の元へ…
何よりも大切な人の元へ…。
「吉村君、乗りなさい!!」
黒のリムジンに乗った匠が、健二郎の前に現れる。
それに急いで乗り込む健二郎。
「鷹橋さん!
僕!僕は…奈津子に会って言わなきゃいけないことがあるんです!
間に合いますか!?」
ここから空港まで、かなりの距離がある。
奈津子が飛行機に乗るまで、もう余り時間はない。
「任せて下さい!
『機乗のA』の名にかけて…必ず、必ず貴方を彼女の元へ送り届けます!」