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「彼女を守る為、外国に逃がした…
違いますか?吉村君」
ここは、大豪邸、吉村邸。
コーヒーをコポコポと煎れながら、鷹橋匠はそんな言葉を吉村健二郎に投げ掛けた。
「………鷹橋さんには敵わないですね」
そう言った後、健二郎は観念したように語り出した。
「奈津子は…彼女は、普通の女の子です
普通にケーキが好きなだけの、普通の家庭で生まれ育った普通の女の子…
そして、当たり前のように普通の幸せを手にする筈の女の子です
……彼女は、僕の家のゴタゴタになんか、巻き込まれちゃいけない…
奈津子は、ありふれてはいるけれど、穏やかで幸せな生活、そんな生活を手に入れなきゃいけないんです…」
「所長を…私達を信じては頂けないんですか?」
「鷹橋さん達は信頼しています…
でも、今回のことが解決しても、また似たようなことが起こるかもしれません
鷹橋さん達を、僕達の専属にするなんて不可能でしょう?
もしも…でも、事が起こってからでは遅いんです…」
「………吉村君…」
「………」
「あ〜あ〜やんなるねぇ
大の男がグジグジと…」
「所長?!
どうしてここが…」
「ついさっき、事務所でヒメに教えて貰ったよ」
煙草を蒸しながら、ツカツカと、お気に入りの革靴でこちらへ歩いて来る響子。
そして………
「………………てい」
「あちゃー!?」
いきなり、健二郎の額に、根性焼きをした。
「ちょっ!
ナニするんですか?!」
額を擦りながら、当然の抗議をする健二郎。
「フン、目は醒めたか?
お坊ちゃん」