………

その後、泣きじゃくる奈津子に、どうしたのかと驚いた『A』のメンバーに、事の説明をする健二郎。

困惑の色を隠せないメンバーではあったが、自分達の問題だ、と、詮索を拒否する健二郎の態度に、深入りをすることはしなかった。

奈津子はひとしきり泣いた後、しばらく一人で部屋にいたが、突然部屋から出て来て…

「私、パリに行きます!」

と、叫んだ。

話の流れについていけていない美柑だったが…奈津子の家で一緒に荷造りをして、空港までついて行くことにした。

石姫は事務所に帰り、健二郎は会社を休むと言い、匠と自宅に残った。 

       ◇

ここは空港のロビー、大きな荷物を傍に置き、長椅子に座っているのは、山田奈津子。

ボンヤリと天井を見上げ、一人、物思いに耽っていた…。

「ねぇナッツン、本当に…行くの?
あ、はいコレ」

日本の食べ物が恋しくなるだろうから、と、梅干しや明太子を空港で買って来た美柑が、それらを渡しながら質問する。

「あ、ありがとう
…うん…行くよ」

「…いきなり行って…あてとかあんの?」

「ないよ」

「そんな…」

「でもね…彼が望んだことだから…」

「ナッツン…
………
ジロー…ジローは何考えてんの?!
全然わかんない!」

「美柑、二郎君を怒らないであげて」

「ナッツン…」

「私ね、多分、多分だけど、二郎君が考えてること、わかっちゃったんだ…
知り合って間もない、最初のデートの頃とは、違う
今は、彼の考えてること…わかる」

「………ジローの考えてること?」

「うん、多分ね………」