「…負けた…
これでもう…龍にはなれない」

「…い〜んじゃねぇの?
龍なんかにならなくてよ?」

大の字になって倒れる燕。

その近くに、ドッカとあぐらをかいて座る亮。

「アンタはアンタ、燕小龍だ
それでいいじゃねぇか」

「…なんだ貴様は
勝者が…敗者に話し掛けるな」

「そう堅いこと言うなよ
俺ぁアンタに感謝してるんだぜ」

「感謝…だと?」

「ああ、アンタがいたから
俺はより勁の高みを登ることができた…
謝々、燕老師」

「っ!!」

ついさっきまで、命のやり取りをしていた男のことを、老師――中国語で先生の意――と呼ぶ。

その顔は、腹立たしい程に爽やかで…。

「………」
(これが…この男の強さか)

亮は、例え相手がどんな人物だろうと、自分よりも優れた、学ぶべきものを持つ者なら、尊敬し、そして、学び取ろうとする。

恐らく亮は、相手が子供だろうと、自分より優れた点があれば、敬意を表すのだろう。

「…完敗だ…」

「え?」

「完敗だと言ったんだ!
いいからとっととどこかへ消えろ!」

「へいへい」

よっこらしょ、と立ち上がり、亮がその場から離れて行く。

「強かったぜ、燕小龍!
…また…、手合わせしようぜ!」

バッ!と右拳を上げ、爽やかに去って行く亮。

「………クソッ」

大地に寝そべり、空を見上げる燕。

「負けたというのに…
なんだ?この気分は…」

そんな彼の頭上を、一羽の燕が飛ぶ。

「っ!
そうだ…
そうだった…
己(オレ)…いや、僕は、龍になんてなりたくはなく………
僕は………」

『僕は、あの空を舞う燕のようになりたかった』

「………」

静かに目を閉じる燕、閉じた瞳から、涙がツ…と流れる。

穏やかに眠る彼の顔は…まるで少年のように幼く。

そして…なにより美しかった。