-ハチside-
目の前で寝息をたてて眠る海の頬には、微かに涙のあとがあった。
死ぬ間際に泣かせてしまった。
10年前のあの日、海を泣かせないと誓ったはずなのに。
「ハチ……」
名前を呼ばれて驚いて海を見ると、さっきと変わらず、目をつむったまま。
「寝言か…」
ちょうど10年前のあの日、海の両親を担当したのは俺だった。
『この子だけは助けて』
必死にそう言ってくる海の両親を見ていると、俺はいつの間にか条件付きで海を見逃していた。
いつか必ず、魂を貰いにくること
それを条件に。
今更ながらに、何であんな約束をしてしまったんだろうと、後悔している。
あの時一緒に魂を奪っていれば、こんな思いをすることはなかったはずだ。
「ん………」