慰められるような人間じゃないのに。責められても、文句なんて言えない立場なのに。


「もう…帰ろう…?」


そんな風に悲しそうに言うから、また申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


でも、離れたくなかった。この場から。


たった数十分前までは、この場にあたしの一番愛しい人がいたんだから。


ハチが最後に言った言葉も、暖かいわけないのに、暖かく感じた唇の感触も、まだハッキリと覚えている。


ハチには体温がないのに、まるで人間みたいに暖かくて。



"海"

そう呼ぶ声も、まだ耳に残ってる。


笑ったときに見える八重歯とか、困ったときは眉毛を下げて笑うとことか、子供みたいにはしゃいでるときの表情とか。


まだまだ、忘れられないことだらけだよ。


ううん、きっと一生、忘れられない。


首にかかったリンゴのネックレスを掴むと、安心して急に頭がクラクラし始めた。


「海…っ」


美弥が心配そうにあたしの顔を覗き込む。


あぁ、また心配させてる。



あたしの意識はそこで途絶えた。