「1人にしないで…っ!」


ポタポタとこぼれ落ちるあたしの涙を、ハチが冷たい手で拭った。困ったように笑うハチ。


「俺のこと、忘れんなよ?」


「忘れるわけないじゃない…! ずっとずっと、覚えてる…っ」


こんなに愛しい人を忘れるなんて、そんなこと出来るはずがない。忘れろと言われたって無理だよ。


「よかった…」


今にも消えてしまいそうだった。


あたしはもう、ハチに触れることが出来ない。さっきまで触れていた腕も、すり抜けて触れなくなった。


「名前付けてくれたり、アップルパイ作ってくれたり、俺のこと好きになってくれたり……俺、すっげぇ嬉しかったよ」


頭を撫でられるけど、感覚はない。

触れられてる感触も、ハチの手の冷たさも、あたしにはもう分からない。



「ハチ…っ」


もう見えなくなってしまいそうなハチ。


どうして、同じ気持ちになれたのに離れなくちゃならないの?