「お客さん?」
「そうだよ。あのギター手放せないんだろ?せっかくだし、みんなに聴かせてやろうぜ」
そう言って浩二は、
トランクにしまってあったギターを詩野に渡した。
緊張しているのか、詩野は胸に手を当て、
大きく深呼吸をして、咳払いを三回。
いつの間にか暗くなった星空を見上げた。
「ありがとう浩二くん」
客が僕らのもとへ集まってくる。
詩野は静かにギターを取り出し、
軽い挨拶をした。
僕ら三人も客にまじり、大きな拍手を送る。
「それでは聴いて下さい。『夢の続きで逢えたら』」
細く繊細な指先から奏でられる柔かな音色。
僕はこの歌をずっと待っていた。
忘れもしない。
その歌は、尾行した時に詩野が書いていた曲だった。
愛し合う二人が再会をする歌。
いつまでも色褪せない力強く、やさしい歌声。
真夏の生ぬるい海風が、
そんな詩野の歌声を乗せて、どこまでもどこまでも運んでいった。
「ありがとう浩二、大輔」
本当に嬉しそうに歌う詩野の表情を見て、
僕は心の中でそう呟いた。
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