詩野は、わざわざ病院までお礼を言いに来てくれたんだ。
寝てたというのもあるかもしれないが、
僕の所に直接来ないとこがまた詩野らしい。
それとひとつだけはっきりしたことがある。
詩野はきっとオーディションに行く。
ここまでの道のりは決して平坦じゃなかった。
苦しいことを幾度も乗り越えて来たんだ。
そんな詩野があんなことで、夢を諦めるはずがなかった。
会場に行けないのは残念だけど、
とにかく僕はこの場所から応援するしかない。
浩二も言ってたじゃないか。
想いは必ず届く。って……
僕は両手を強く合わせ、
天を仰ぎ神に祈りを捧げた。
時計の針が正午を指すと同時に、病室のドアが開いた。
カーテン越しに馴染みのあるシルエットが浮かび上がる。
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