山賊女は悔しそうに地面を見つめた。
「………こいつは親に殺されそうになった。俺が家屋に入ったときだってこいつを守ろうという気持ちは微塵も感じ取れなかった」
「……」
「だから……、俺はこいつを攫った。助けた気分で気持ちよかった」
俯いた山賊女の顔から一滴、滴り落ちる何かをこの武士は見逃さなかった。
「お前……、泣いておるのか」
そっと手を伸ばし、女の顎をもって上を向けさせた。
「…!」
その顔に、武士は魅せられた。
泥がついた頬を洗い流すかのように溢れる大粒の涙が十六夜月で美しく光っていた。
女は顎を添えられながらも続けた。
「けど…!結局はあの親たちと俺はどこも変わらねぇ。こいつに飯を食わせられねえ…。子守唄も知らねぇ…。全部、俺の浅はかな行動の所為(せい)だ」
――――美しかった。
ただ月夜に照らされた容姿だけではない。
赤子―――それも見ず知らずの子にそこまで自分を責めることができる。
それに精一杯の愛情を与えられる。
武士はその義理の親子を羨望の眼差しで見据えた。
自分もこんな母のもとで育っていればもしくは…―――――