「お前はおとなしいんだな…」
そう口にしてから後悔の念が過る。
否―――――
腹が空き過ぎて、声をあげる力さえもないのだ。
「ごめんな…」
もし自分があの時攫わなければ殺されていたかもしれない。
しかし、更なるひもじい思いはしなかっただろう。
「ごめん、ごめんな…」
山賊女はすすり泣きながら謝り続けた。
その時だった。
「――――女、何故(なにゆえ)泣いておる」
山賊女ははっとして見上げた。
そして次には自分を咎めた。
――――どうしてこんなにも人が近づいていることを気付かなかったのだろう…
心身の乱れが導いた結果なのかと自問自答していた。
そしてそれと同時に、目の前の男に対して警戒を強めた。
腕の中の赤子を少し強く抱く。
その様子を見て、男は鼻で笑う。
「何…、ただの通りすがりの者よ。お前とその赤子をどうにかしたいなど考えてはおらぬ」
それでも山賊女は男を睨んだままだった。
「ふっ、警戒を解かぬか…。賢明な母親じゃな」
男は羨ましがる様子で二人を見つめた。
今宵の月は十六夜であった。
そのため、いつの間にか暗くなった森の中を月が照らしていた。
その光が男をも照らす。