「─────よい、ひすい。それが普通の人の反応だ。俺がこうしてくれと、言ったのだから…」
「『こうしてくれ』って…」
政宗はまた月を見上げた。
「俺は五つ───ああ、梵天丸と同じくらいのころだな。その時、俺は不治の病にかかった…」
政宗は悲しみ惜しむように右目の目頭から目尻までをゆっくりとなぞった。
「『不治の病』とあったが、俺は生き長らえ、代わりに右目の光を失った。光が差し込まない初めは絶望したのを今でも覚えている…」
「……………」
政宗の顔は辛そうだった。
もしかすれば、彼は自分にこのことを打ち明けたくはないのかもしれない。
ならば、もう一つの理由など訊かなければよかったとひすいは後悔している。
誰が愛する人を苦しめたりするだろうか…───────
ひすいは自分の裾をぎゅっと握り締めた。
「────…使い物にならなくなったのは、もはや己を苦しめる足枷でしかないと思ってな…。俺は家臣たちに俺の右目を潰してくれるように言った」
「……………それで、そんな眼を─────」
政宗の右眼にはもはや眼球という名のものは存在していなかった。
元々あったであろう右眼の位置には皮膚で覆い隠されており、それは瞬きを忘れているようにあった。
だが人とは異となるものに多少の当惑はあるものの、ひすい自身、政宗を軽蔑するような視線を向けることはなかった。
「小十郎がそれを請け負ってくれた。あの者がいたから、俺はここまでこれたのだろうな────────…だが、母上は右眼を潰した俺の顔が醜くて仕方がなかったらしい」
「そんな…っ…!」
「戦国の世の大名など、こんなものだ。主に相応しくなければすぐに配下の者が謀反を起こすからな。母上はそれも恐れたのだろう。代わりに、弟の小次郎に継がせようと何度俺を殺そうとしたことか…」
「まさか、政宗さんの母さんが自ら…?」