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ゴト…





熟れた林檎が地面に落下する。




そこには小さな歯形がついていた。






「嘘、だろ……?」





その先にあるのは彼女が想い秘める彼の人―――――






「こ、小十郎さん…」








目の前の状況を見たくなかった。

いや、事実から目を背きたかった。
受け入れたくはなかった。






「そんな―――――」






全てを言い切る前に、ひすいは森へ走り出していた。






今日は暖かな日和のはずなのに、駆け抜けて受ける風は身を切るように冷たい気がした。





また、視界が霞む…――――






この感覚は前も経験したことがある……







「泣いてんのかよ…っ!」






事実を見たからではない。それを受け入れるために涙を流す自分が許せないからだ。






ひすいは必死に目を擦り、それを拭った。






けれど…―――――








「くそっ!止まれよっ…!泣き止めよ―――――!」








袖が雫を吸い込む以上にそれを上回って涙は流れた。






誰かにこんな姿を見せたくなくて、ひすいは敢えて一般的な森への入り口から離れたところから入ろうとした。





城下から駆け抜けた脚はガクガクと震え、これ以上走れないことを主張する。







「なんだよ…、なんなんだよ…」





ひすいは走るのを止めて歩き出した。