────それは、つい先日のことである。
「貴女は伊達政宗が憎いでしょう?」
僕がそう率直に訊ねると、言わんばかりの顔で目の前の女はにやりと笑った。
「ああ、憎い。あんな醜い子がこの奥州を治められるはずがない。―――して、そなたの考えを申してみよ、悠とやら…」
「はい。伊達政宗の食す物にこれを―――」
僕は手前に小さな小瓶を置いた。
「……毒か。妙案じゃな」
「猛毒でございます。さしもの政宗も、これには勝てますまい」
女は不適に笑う。
「今宵でも、侍女に忍ばせておくかの…。ふふ……、これであやつも終いかのぅ」
醜いと言う子を生んだ醜い母を、僕はそれとなく眺めていた。
―――――人は、憎い者を思い浮かべたとき、ここまで酷く笑うことができるのだろうな…。
この女のように、僕の母も僕をこんな風に思っていたのだろう。