「だから頼む!こいつを…、この赤子を助けてくれ…!」




熱心にすがりつくこの女の声で武士は我に返った。



「では、その見返りは如何(いかん)ぞ[どんなだ]」




本来、武士というものは己が利益で行動する。


たとえ、相手がどんなに美しくとも、自らに利がなければ手を貸すこともしない。



それは、この山賊女にとって重々承知していることであった。


かつて、義父がそれが所以(ゆえん)で何者かの武士に殺されたのだ。




「見返り……。―――わかったよ、俺の財宝を少しくれてやる。それで文句はねぇだろ」



今日も行ったが、先日もまた村を襲っていて、そこで多少の金銀が手に入ったばかりであった。



さすがの武士でも金銀以上の見返りは求めないだろうとふんだのである。



しかし、この武士はにんまりと笑った。



「財宝とやら…。それは、お前の身体か?」



「ばっ!……変態だな、武士の癖にっ!」



「そんなもの、関係はなかろう」


「宝だよ、宝…!金銀やるっつってんの!」




それまでこの山賊女が赤らめるのを楽しそうに眺めていた武士だが、金銀という宝だと聞いた途端に真顔になった。