「まぁ乗りなよ。悪い様にはしないよ」
「ソレは悪い様にする悪人の台詞だと思うんだが…」

家のすぐ側に、エンジンをつけっぱなしで路駐。
彼女に誘われるままに、その車に乗り込む。

「まぁ詳しくは走りながら言うよ。シートベルトはちゃんと締めなよ、飛ばすからさ」
「法定速度は守……」

全部言い切る前に急発進。
舌噛むよ、と彼女の妖艶な唇が動いた。



◆ ◇ ◆



「そろそろ何の用か話してくれませんか?」

休日で渋滞気味の国道に捕まったところで彼女に訊いてみる。
スピードが出せないでイライラしていた彼女に訊くのも怖いのだが、この車、排気音が大きすぎて走行中は話しかける事が出来ない。

「大体予想ついてるだろ?だったら訊くなッ!」

彼女はイライラ、
ワタシはハラハラ。

「着けば解る…と言いたいところだが、一体いつになったら動くんだ、この渋滞はッ!」

バンッとハンドルを叩き、クラクションを思いっきり鳴らした。

「あー、焦っても苛ついても仕方ないね。ちょうどいいから話すよ」

ハァ、とタメ息を吐く。
そして苛つきを抑え、普段の顔で話し始めた。

今回の依頼、
斎藤六の不幸について。