「やぁやぁ、命君。元気ですか?」
「元気…ですよ」

貴方の声を聴くまでは、ね。

「ところで、だ。今日は休日だったよね?」
「まぁ…休日だけど」
「暇だよね?」
「いや、忙しい」

急いで支度する。
通話しながら服を着替え、持ち物を鞄に詰め、バイクのキーをポケットに入れた。

「ありゃ?暇じゃないの?」
「あぁ、今から出掛けるところだよ。じゃあね」

プッ、と通話を切って家を出た。
自分の不幸は予知出来ないが、予感は出来る。
嫌な予感がビンビンするのは気のせいではないだろう…

その証拠に……

「ちょうどよかった。それなら今から一緒に出掛けようじゃないか」

ニヤリという擬音が似合う、彼女らしい微笑み。
玄関開けたら篠森零が優雅に立っていた…

どうやらワタシが家にいること、電話に出ること、逃げ出すこと、全て予想されていたみたいだ。

「何故、わざわざ家の前で電話するんだ…」
「この方が安っぽいホラー映画の様でビックリするだろ?やっぱり主役が登場する時は、こうインパクトがなきゃね」

眩しい程、黒く輝く彼女の邪な笑顔。
どうやら選択肢なんかは存在せず、ワタシは彼女のシナリオ通りに動かされている様だった。