マヨイはなんで哀しい存在として生まれたのか……
幼いワタシですらそう感じる程に儚い存在。

「別に探してとは頼んでないよ」

そんなワタシの気持ちを知らずに少女は言った。
今なら解るが、少女は探して欲しかった。

家族で遊んだこの場所で。
家族なワタシとこの場所で。
僅かな時間を過ごしたかったんだろう。

それでも身体は病気の為に、病院以外で過ごせぬと理解していながら。

「勝手に脱け出したら探すだろ。これから脱け出す時は、ワタシと一緒に脱け出しなさい」
「……わかった」

脱け出すならワタシが責任を取ろう。
遊びたいならワタシが遊んであげよう。

学校なんかいらない。
友達なんかいらない。

マヨイが病院が居場所なら、ワタシの居場所も病院だ。
マヨイの隣がワタシの居場所だから。

「ん……?そういえばこの子は?」

マヨイの横に誰かが居た。
記憶にも無い少女。
マヨイよりさらに幼い感じだ。

「この子は……その……」

何故か言葉に詰まるマヨイ。
友達なのだろうか?
マヨイは妙に大人びた所があるから、友達とは素直に言えないのかもしれない。

しかし……誰だ……?
誰かに似ている……

「トモダチです」

ニカッと眩しく笑う少女。
嘘偽りなく、心の底から思っているのが解る。

優しき少女。
太陽のように眩しく、明るく、正しく、純粋に。
マヨイも身体が丈夫なら、こんな少女になれたんじゃないだろうか?

「そっか友達か。それなら帰る前に挨拶しなきゃね。ほら」
「うん……今日は……ありがと……」

照れ臭そうに名前を呼ぶ。
よく聴こえなかったが優しそうな名前だった気がする。

「じゃあね、バイバイ」
「うんっ!またね!」

元気良く返事をして別れた。
またね……か。
ワタシの記憶……いや、記録にはもうマヨイは外へ出ていない。

いや、それどころか……
マヨイは病室すら一回しか出ていない。

病室を出たのは手術室へ、そしてそのまま集中治療室へ。

そして……

そして、鬼籍へ。

生存が鬼籍へ。
在命が鬼籍へ。

白い部屋。
白い身体。
白い布切れ。

ワタシは咆哮した。