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思い出すだけで苦しくなる。

集中治療室に入って数日後、妹が逃げ出したと連絡があった。

先生から聞かされた瞬間に教室を抜け出し、
上履きのままで、
校門を乗り越え、
ひたすら、
ただひたすらに、

ワタシは考えなくマヨイを探し続けた。

思いつく全ての場所へ。
思いつく全ての路を通り。
思いつく全ての記憶を頼りに。

「…………ッ!」

そこでふと気付き、ワタシの脚は止まった。

思いつく場所の少なさに。
その身に背負う不幸の性で、彼女は限られた数でしか外を出歩いた事が無いと。

両手で数える程しか、外に出た事が無無く。
片手で数える程しか、場所は限られており。

そして、彼女はいつも哀しそうな眼をしながら病院へ戻るのだった。

何故この様に不幸と幸福は人を選ぶのか?

何故この様に彼女が幸福を選べぬのか?

再び動き出したワタシの脚は、1つの場所へと向かい出した。彼女が最も遠く、
……それでもソレは駅3つ分。

彼女が最も長く、
……それでもソレは三時間。

彼女が最も楽しそうに居ることの出来た場所へと。



「……見つけた」

暗くなりつつある草原の中、少女は立っていた。
細い足は土に汚れ、細い腕は傷だらけ。
息は乱れ苦しそうに、それでも少女は歩き続けた。
少女はただ、外に出たかったから。

「えぇ。見付かると必ず無理矢理……」

誰かに話しかける途中で目が合う。
悪戯が見られた子供の様にバツが悪そうな表情。
それと同時に安堵の表情。
「帰るぞ」
「見付かっちゃいましたね……」
「ッたく……探したぞ。勝手に脱け出しやがって」

苛々した表情だけどワタシ自身だから解る。
ワタシは、この時、泣きそうだった。

妹……マヨイが何をした?
ただ出歩いただけ。
ただ遊んだだけ。
ただ子供らしくあっただけ。

マヨイを何故怒る?
子供らしく外で健全に遊んだマヨイを何故怒る?

何故マヨイはあの白い部屋に閉じ込められなきゃならない?

病気だから。
何故?
不幸だから。
何故??
生まれつき不幸だから。
何故ッ!?
それが運命だから。
何故ッ!何故ッ!何故ッ!