「兄さんは心配し過ぎ」
「そんなこと無いよ」
「兄さんは兄さん自身を蔑ろにし過ぎ」
「そんなこと無いよ」
「兄さんは私に構わないで楽しむべき」
「そんなこと……出来ないよ」

空気が完全に重く苦しくなった時、マヨイはワタシを見据え言った。

「それなら……私の様な不幸な人に人生を捧げ続ける覚悟が兄さんにはあるの?」
「え……?」

この言葉の意味を知るには、ワタシはまだ幼かった。

言葉の続きは嘔吐伴う咳とワタシの泣き叫ぶような声に止められた。

集中治療室に行くのも時間の問題だった。

彼女の不幸は彼女の華奢な身体に耐えれるモノではなかった。

か細い枯れ枝の様に、触れれば気味のいい音と共に折れそうな、細く脆いその双肩は、大きく重い不幸を載せるには無理な話だ。

それならば、少しでも荷が降りるならば、その分ワタシが彼女の不幸を背負おう。

「ワタシは……」

今も昔も。

「ワタシには……」

答えは決して変わらない。

「不幸な人の為に人生を捧げ続ける覚悟が……あるよ」

この答えだけは決して変わらない。

「マヨイが不幸な人ならマヨイを支え続けよう。人生を全て捧げよう。」

白い白い病棟で、
赤い赤いベッドの前で、

誰も居ない病室で、
ワタシしか居ない病室で、

誰に言うでも無く、
自分に言うでも無く、

神か悪魔に言うように、ワタシは何かに誓ったのだった……