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揺れる車、過ぎる景色。
ココが何処だか私には解らない。

カーステレオから流れる曲が、時代の古さを示していた。

「お、ユキ。起きたか?」

バックミラーで私を確認すると、父が明るい声で言った。
その言葉に反応して、母が振り向いた。

「ユキちゃん、おはよー」
「んー、おはよー」

子供の可愛い声が私の口から出る。
幼い頃の私の視点から、夢は始まった。

「あらあらあら、ユキちゃんヨダレが凄いことになってるわよ?」
「よだれ?…わッ!ほんとだ…」

小さい手の甲で口元を拭うと、ベタベタに…
子供の時とはいえ、随分と恥ずかしいなぁ。

「もう少しでお祖父ちゃんの家に着くからね。寝といていいぞ」
「ううん、わたし起きとく!」

視線が動き、窓の景色が映る。
木と空と雲しか映っていないその景色は、見ているだけで感動することが出来た。

「あついねー」
「暑いわね、ユキちゃん。お祖父ちゃんの家に行けば涼しいから我慢してね」
「うんッ!わたしガマンする!」

母の方を見ながら頷く。
母は笑顔で私の口元を拭った。
ヨダレがまだついていたのだろう。

外の景色は見覚えのあるモノになっていった。