お願い、こっち来ないで?



あれから、まだ外出禁止のまま。


だけど、それなりの生活はできている。


食材だって、ネットで注文したら届くし、


親から一応お金は送られる。


「まだ僕たちこーやって家の中閉じ込められっぱなしかぁ」


「もうそろそろじゃない?」


5月。中間テストが近いはず。


一応なんとか勉強はしていたりするから、


いつも通り、平均点くらいは取れると思う。


学校に行けてないから、テスト受ける以前の問題だけど。




だけど、ちゃんと普通に生活できている。




――プルルルルル、プルルルルル――




家電が鳴った。


「ハイもしもし坪井です」


『〇〇警察署だが……』


「ああ、」


『君たちの親が、行方不明なんだよ』


「ハァ!?」


『家にいないだろ?』


「…は、はいぃ…」


一昨日だって、お金…。


『昨日、宿泊先の民宿を出たんだが…』


「なんでわかるんですか!?」


『行ったんだ、君たちの両親に会うために』


なんか、急。


急すぎて、ワケわかんない………。




「ん?」


「あ、夏香。


何かと弱いの多いんだねー」


いたずらっ子の顔になっている優。


「催眠術とか、さ。


頭の回転早くなって、あ、知恵熱か」


コ、コイツめ……。


「バカにするな」


「お父さんとお母さん、多分僕の親に殺されたって」


「ハッ!?」


急に起き上がったせいか、頭痛が走った。


「たぁーーーっ……」


「夏香、バカだよ。


だから余計気を付けないと…」


悲しい目をしてた。


私には向けられてはいなかったけど。


「とりあえず、夏香はまだ寝てな?」


寝てな、って……。




「疑う?」


「別に寝てなくてもいい気がするのに」


押さえつけられてるんですけど。


右肩だけが。


「そう?」


優の左手には体温計がちゃっかりと。


「貸して」


「5分前にも計ったけど…」


知るか。


そう思って、起き上がっても…。


確かに体が重い。


でもなんかここで負けを認めたくなくて、体温計を挟んだ。


「夏香ぁ」


呆れた口調で呼ばれた。


「しんどいんだったら寝てなよー」


「ヤダ」


「ん、体温計鳴った。ど?」


認めたくない。38.5°C。


「ほーらね」


…ムカつく。




「だから言ったじゃん。」


カレシになってから、やたら頼もしい。


なんか嫌だ。ムカつく。


でも今はおとなしく寝る事が第一な気がして、


おとなしく寝ることにした。




……でも、当然ながら寝れるわけがない。


両親が、殺されるって…。


布団の中で小さく丸くなる。


リビングにわざわざ用意されたもの。


「夏香?」


「ん…なに」


喋る気力すら無い。


重症だな、自分。


「知恵熱…じゃないみたいだね。


疲れたからかな?」


「ん……」


「こんな日に布団の中入れるもん。


しんどいよね」




いつになく、優しい。


「病院行けないからなぁ」


「んー…」


ちょっと安心したりしてる。


もちろん、どーなっても言わないけど。


「夏香、自分的に風邪っぽい?」


「んー…?」


基準がわからん。


「んとさ、昨日までとか」


「ぜんぜん…」


「今朝も?」


「うん」


「電話…してる時は?」


「ふつうに、はなし…きいてた」


「起きたらしんどかったと」


「うん」


そっか、と髪をなでる。




「じゃあ、疲れてるんだろね」


そう言って笑った。


勇といる時とは全く違う感じがした。


気がラク。


自然体でいられる。


「あ、電話」


その声と共に、手の届かない所へ行く。


近いけど、手を伸ばしても届かない距離。


勇なら別にそこでも良かった。


優は、すぐ近くにいて欲しい。


違いが、はっきりとした。





「夏香。外出OKって。


お金は、遺族年金がでるって」


「そ…っか」


「病院行く?」


何となく、首を横に振った。


「そっかー。夏香だもん、気合で治すよね」


この野郎……。


治ったら速攻で殴ってやる…。




そう意気込んだものの、結局治ったのはその5日後。


「かなりの長期戦だったねー」


はづきはいきなりそう言った。


「今度は宮本が倒れるんじゃない?」


「放っとく」


「あんたってとことん冷たいね」


「はづきに言われたくないよ!」


裏で鬼って言われてるんだから!




学校に再び来た次の日、早速テストだった。


ま、ちゃーーーーんとマジメに家でやってたから、


いつも通りの平均点。


「夏香高校どーすんの?」


「その辺。優は?」


「バイトできるとこ」


この適当さ。