お願い、こっち来ないで?



「え……!?」


そしたらば、ドアが乱暴な声を出した。


急すぎて、びっくりだ。


今、家には自分以外誰もいない。


親は、どっか行ってる。



びっくりだ。


まさか、優が飛び出すなんてさ。


何も持たずに。


何かのマンガかドラマかのマネかよ。


……でもさ、コレって私のせいだよな。


うん、確実に。




次の日。


学校があるのに、帰ってこなかった。


「ナーーーァツーーーー???」


「…何、はづき」


「どーした?」


「何が」


「超暗い。テンション低すぎ」


「別に」


「なぁーんでこーゆー時にさ、親友を頼らないワケ?」


クソっ、はづきの説教に展開したっ。


…コイツの説教は怖くないケド長々しててめんどいんだよー。


「ナツ…アンタさ、親友のあたしがわからないとでも思った?」


説教じゃない…っぽい。


「は?」


「やっべ。後で」


じらしやがった。






『優ってさ、親の事、どー思ってんの?』


『……え?』


『マジの親』


『どーってさ』


『イヤ?別にそーでもない?』


『知らないよ』




それだけだった。


静かに椅子から立って、そのまま……。


そう、それだけ。


たったそれだけ。


何であんな事聞いちゃったんだろなぁ。


…って言うか、何でこんなに気にしてるんだ?


別に、迷惑なヤツが消えていいじゃんか。


そーじゃんか。




「……んでぇ?」


相変わらず、ムカつくほど鈍感なヤツ。


「ナツ、何が”んでぇ?”なのさ」


授業中も切なーい顔しちゃってさ。


私らのグループではもう絶滅してたと思ってたけど、


いたんだね。


しかもこんな姉さんみたいなの。


マジで笑えるわー。


「ナツさ、マジでわかってない系?


マジだったらちょっとヤバいよ」


「かなり重症?」


かなりどころか、相当だって。


「もういいや。


今まで見てきたからみんなわかってるのに、


なーんで肝心なアンタがわかってないかなあ?」


…だめだコイツ。


マジでわかってない、って顔だ。






「好きなんでしょ?」




言ってやったぜ。


この一言よ。


「…誰が?」


……バカ野郎。


「宮本以外、誰だっつうんだよ」


ね?


本当に、周りのヤツのはわかって、


自分わかってないとかさ、本当無いでしょ。


「そでしょ?ね」


「そー…か?」


良い反応してくれるね。


見てて楽しいよ。


「だってさ、なんやかんやでめっちゃ気にかけてるじゃん」


「そう?」


「かなり」


「……そっか」




「宮本以外、誰だっつうんだよ」


はづきは恋愛話になると遠慮を知らない、


怖~い言い方になる。


(密かに”鬼口調”って言ってる子もいるし!)


口だけじゃなくて、顔も相当怒っちゃってるよ~…。


^言^


こんな感じ?


こっわ~~~~~いスマイル!


笑ってるのに怒りのオーラがゆらゆらしてるんだよ…。



………って言うか!!


マジで初めて思ったよ。


自分が優のこと好き、なんてさ。


無自覚だったとは……。




…そして、ようやく自分がしていた事に恐怖を持った。


涼花ちゃんや、柏原を始めとする一部の女子!


ま、私自身の立場はそれなりのもんだから大丈夫だとは思うけど。


「で?どーすんのこれから」


怖ーいはづきは怖ーい口調で聞いた。


「…何が」


今どっか行っててどーするもないし。


「告っちゃえば?」


「そんな軽はずみな」


「バーカ前まで勇引っ張ってたのにぃ?」


「引っ張って、ない。」


「あっそ」


「とりあえず、帰って来るの待つしかないよね」


はづきは鼻先で笑うだけだった。




「ただーいまー…」


しーーーーーーん……。


「……」


有り得ないほどの静けさ。


今まではそうだったんだよ?


誰かさんが来るまでは。


その誰かさんが、ね………。


堪え切れず、声に出る。


「どっか行っちゃったしなぁ」


でも、大丈夫でしょ!


どーせ今までだって、すぐこっち戻ってきたんだし。


またすぐ戻って来るでしょ!




「………」


それにしても、優のヤツは一体どこに行ったんだろう。


涼花ちゃんに聞いてみる?


それはなんか煩わしいか。


てかあの子嫌いだし。


ケータイとか置きっぱだし。


メール送ろうと思った矢先なんだけどなぁ。


すると途端に、ケータイが鳴った。


鳴いてるのは……優の。


しかも涼花ちゃんから。


…着拒してねーのかよあのバカは。


右、左。


ちいさく見回して、決心した。


「…もしもし…?」