空が横に座ったことを確認して、大きく息を吸い吐き出す。

今度はため息ではなく深呼吸をし、それが伝わったようで表情に怯えのような感情は見られなかった。


「ごめんな、ここのところ変な感じで」


「いえ・・・私こそ、ごめんなさい」


二人とも下を向いて、しばらく沈黙が流れる。

その間、俺はこれから話すことをなるべく正確に、そして全てを伝えられるように頭の中を整理していた。


「今から言うことは、単なる愚痴になるかもしれない。

俺は自分の過去のことを冷静に淡々と話せるほど大人でもないし、相手の悪口を言ってしまうような子供でもないから」


顔の前でゆっくりと手を合わせる。

ぽんっと音を立てて、両手の前に口をつけてもう一度大きく深呼吸をする。

それを空は何も言わずに、ただ小さく頷いて見届けてくれた。


「俺と妃來が幼馴染だということは、以前に教えたよな。

幼稚園のときから小学校、中学、高校、挙句の果てには大学まで一緒だ」


遠くを見つめる表情は、空にどういうふうに映っているだろう。


「きっと、近過ぎて鈍感な俺は気付けなかったんだよな・・・」


「それって・・・」


「俺は妃來のことが好きだった。

正確にいつからとかは分からない。

人の目を話すにも一苦労していた妃來が心配だったからじゃない。

きっと、俺のことを分かってくれている、そんな妃來が好きだからこそ、ずっと傍にいたんだよな」


このことを口にしたのは、このときが初めてだった。

一葉や妃來、他の友人も決して口にすることはなかった、自分だけの閉じ込めていた想い。