面倒そうに椅子に座り、また一つ大きくため息をつく。

このため息の意味を一葉は分からずに不思議そうに眺め、妃來は察したように同じくため息をついた。

二人に気付かれないように、もう一度ほんの少し視線を後ろに向ける。



俺たち三人に対して視線を合わせることができず、酷く寂しそうに斜め下を見る空の姿。



その姿が見えている俺と妃來、見えない一葉。

それがこの反応の違いだ。



それでも俺は普段と変わらないようにと前を向き、何か話題を探そうと必死になる。


「馬鹿」


その声と同時に、左の脛に妃來のどちらかの足のつま先が入った。

不意にそんなことをされたので、痛みは必要以上に体を強烈に巡った。


「何か隠し事をしているときの癖、ちっとも昔と変ってないじゃん。

そんなの翔らしくないよ」


強く言い放ち、妃來はそのまま食堂を立ち去っていった。


「いいよ、お前も行けよ」


痛みに堪えながら、どちら側に付こうか迷っている一葉を妃來のほうへと向かわせる。

一葉は申し訳なさそうな表情をして、無言で両手を合わせて慌てて妃來が向かったほうに走っていった。


「くそっ」


小さく漏らし、少しだけ涙目になる。

脛の痛みだけではない、それ以上の痛みが胸に突き刺さった。

突き刺してきたのは妃來で、それをできるのは一葉ではなく、やはり妃來しかいなかった。

それだけにこの痛みは、他の何よりも痛かった。


(やっぱり、そうだよな・・・)


テーブルを軽く拳で叩き、決意というには大袈裟なものだけど、自分にとって大事な意思を固めた。