「翔さんもいい人です」


その言葉に思わず驚いた。

女の子を見ると、さっきとは違い満面の笑みになってこちらを見ていた。

腰辺りまで伸びたさらさらのストレートの髪が風になびき、夕陽に当たり輝き美しく見えた。


「どこがだよ。

俺、何も良いことなんてしてないだろ」


「そういうところです。

自分がしている良いことを良いって思っていないところが、翔さんをいい人にしているんです。

それに・・・

昨日会ったばかりの人に、私がこれだけ緊張せずに話せるのは・・・

やっぱり翔さんがいい人だからです」


良いことを良いって思っていない・・・

何か少し馬鹿にされたのかと思ったが、その表情を見て馬鹿にしているのではなく真剣に言ってくれているのだと分かった。


「藤沢翔」


「えっ」


「名前だよ。

俺、ちゃんとお前に名前言っていなかったから」


そう。

俺たちはお互いに自分の名前をまだ言っていなかった。

本当は俺は幽霊に名乗るつもりなんてなかったし、女の子の名前も聞く気など全くと言っていいほどなかった。

でも、この子は幽霊でもちょっと違う感じがするし、名乗っても別にいいだろうと思った。