もう少しだけ困らせてみようと思ったが、どうやって困らせようかいい案が思い浮かばなかった。


「女の子か。

羨ましいねえ」


「お前には妃來(ひらい)がいるだろ」


嬉しそうに斜め下を向いて小さく笑う一葉・・・


「全く、思い出すだけでそんな表情になる彼女がいるのに、何が羨ましいだよ」


呆れたように言ったが、その表情を見て二人が上手くいっているのだと分かり、俺も嬉しくなった。



昼飯も食べ終わり、食堂を出ると太陽の日差しが照りつける。

思わず二人とも目を細めてしまい、お互いがお互いを見て笑ってしまった。


「じゃあな」


「おう」


俺は三限は空きで、一葉は三号館。

食堂を出たところで一葉は三号館のほうへと足を進め、俺は四限の授業まで何をしようかと考えた。


「あっ、そうだ。

翔っ」


少し進んだところで、何かを思い出しように一葉は振り返った。


「その子、いい子なんだろ。

テスト中、お前『サンキュー』って言ってったってことは、どうせ答えでも教えてもらったんだろ」


今度は俺のほうが困ったような表情をしてしまった。



その表情のまま女の子を見る。

確かに悪い奴ではない・・・


「翔はちょっと口が悪くて、天然なところもあるけど、すげえいい奴だから。

いつまでいるのか分からないけど、よろしくな」


俺の視線の先に焦点を定めて、珍しく満面の笑みで一葉は言い、再び三号館のほうへと足を進めた。

あいつの満面の笑みなどそうそう見れるものじゃない。

しかし、お前がちょっと大きい声で言ったおかげで俺が周りから不思議な目で見られているじゃないか。

とりあえず、目的は何も決まっていないがこの場から立ち去ろうと歩き出した。