「おい、いつまでそうしているつもりだよ。

見た目は悪いけど、一葉はすげえいい奴なんだから怖がらなくてもいいぞ」


食堂に入る直前に女の子に向かって声を掛けた。

もちろん、周りから見ればただの独り言のような光景で、人がたくさんいる場所ではこんなことしないのだが(そもそも、憑いてきた霊に話しかけること自体がそんなにない)、一葉がいい奴だということを分かってほしかったのだ。


「おいおい、見た目は悪いってところだけ余計だよ」


「えっ、自分が見た目いいって思っているの?」


二人で笑いながら券売機の列に並ぶのを見て、女の子は恐る恐る俺の横に近づいてきた。

そんなに怯えて来なくても一葉は女の子のことは見えていないし、それ以前にこの食堂にいるほとんどの人が見えていないのだから平気なのにと思う。

そう言いたいのだが、さすがにこれだけの多くの人がいるなかでそのやり取りを一葉にフォローさせるのは悪い。


「大丈夫だから」


呟くような小声で言っても、やはりまだ少しだけ顔が強張っていた。

第一印象が悪い一葉だが、ここまで怖がっているということはよほど人見知りが激しいのだろう。

まあ、しばらくは俺に憑いているようだから、時間が経てば自然と一葉がいい奴だということは分かってくれるはずだ。