坂井チーフ、直之は38歳で既婚者。

つまり私は不倫している…

お互いに結婚する気なし。なのではなく、結婚なんてできない。

そして誰にも知られてはいけない関係。

「昨日、どうだった?」
事務所で一通り仕事の話を終えた直之がそう聞いてきた。
「ええ、忙しい中お休みをいただきありがとうございました。」
素っ気なく答えた私に直之は職場では見せない顔で笑う。
「結婚したくなったか?」

ガンって石で胸を叩かれた気がした。
笑って、平気な顔でそんなこと言うんだ…

黙ったままの私に直之は目を細めた。
「今日、いつもの所いて」
私はただ頷いた。

好きなのわかってるくせに。

私は彼を好きな限り、この関係が続く限り、夏希のように幸せになれない。
嫌なくらい痛感した。