高原くんと会社を出て、並んで歩く。

何から話していいのかわからなくてお互い無言のままだ。

このままでは駅に着いてしまう。

「俺、余計なことしたかな?」
「え?」
「坂井さんって俺がバイトだった頃の上司なんだ」
だから久しぶりって言ったんだ。

「当時から結構いい加減でさ、最近そんなに悪い噂聞かないなぁと思ってたら、桜川さんがいたから適当なことできなかったんだな」
そう言われてももう心は動かない。
「ありがとう。まさか辞令持って来るなんて思ってなかった。人事部でもないのに…」
高原くんが困ったように笑う。
「人事部長がさ、地方店の人事迷ってて、文句のでないいい人材がいますよって薦めておいた」

確かに地方店への転勤は嫌がられる傾向にあるらしいから人事が難しい。
優秀な人材などに下手に振ってしまうと会社を辞められる恐れもある。

「適材適所って言いたい所だけど、俺の私情も入ってたな」
いつもの優しい高原くんだった。

「せっかくのノー残業デーだし飲みに行く?」
「ほどほどに」
私たちは顔を見合わせて笑った。