私が落ち着くまで、高原くんは抱きしめていてくれた。

そして私にシャワーを浴びるように勧めてくれた。

鏡で見た私の左頬は赤く腫れていた。
服もまともに着ていなかったことに今更気付く。

何があったかはこの姿を見たら一目瞭然だろう。

恥ずかしくて、申し訳なくて叫びたい気分だったけどシャワーを浴びて、ちゃんと服を着て高原くんの待っているリビングに戻った。

私が出てくると高原くんが氷嚢を用意してくれていた。それを左頬に当てるとヒンヤリして痛みがひいた。そして紅茶をいれてくれた。
「勝手にいれちゃったんだけど」
少し濃いめの紅茶は苦かったけど優しい味がした。

「ありがとう」
やっと言葉が出た。
高原くんは真剣な眼差しで私を見つめる。
「どうしたのか聞いてもいい?」

私は少し躊躇った後、頷いて話し出した。

付き合っている人がいること、その人には妻子がいること、携帯を見られあの日の事を知られ逆上されて暴力を振るわれたこと…

高原くんはただ私の話を聞いてくれた。

「桜川さんはその男をまだ好きなの?」
高原くんの問いに私は俯く。
「わからない。それにどうやったら別れられるのか…」
「どうして?また酷いことされるなら俺が一緒についていこうか?」
私は首を横に振る。
「同じ職場の人だから…」
私が絞り出した言葉に高原くんが硬い声で言う。
「坂井チーフ…」
当てられたことに驚く。
「なんで…」
高原くんは少し考えてから言った。
「桜川さん酔ってたから覚えてないかもしれないけど、俺に全部言ったよ、坂井チーフのこと」
「ほ、ほんとに?!」
全然覚えてない。
「あ、誰にも言ってないよ!」
慌ててそう言う高原くんがなんだかおかしくて笑ってしまう。
「なんだ、知ってたんだ…」
なんかまた涙が出てきた。
「桜川さん」
「ありがとう高原くん。」
この人がそばにいてくれてよかった。
「私、自分できちんと決着つける」
高原くんが強く頷く。
「今度はためらわないでいつでも呼んで」
「ありがとう」
再びぬくもりが私を包む。
さっきよりも強く、私を勇気づけた。