小さなイタリアンのお店で麻由と待ち合わせをした。

すでにいつもの席で麻由がタバコを吸っていた。
灰皿を見ると吸い殻が2本。
「ごめん、待った?」
「平気、授業が休講になって早く終わっただけだから」
私は椅子に座り白ワインをオーダーする。
「タバコやめるんじゃなかった?」
「ストレス発散にはタバコが一番よ」
どうやら禁煙は1ヶ月ももたなかったらしい。

オーダーした白ワインを飲みながら、私はこの間あった高原くんとのことを麻由に話した。

「優子でも酔った勢いとかあるんだ?」
その場限りが日常で珍しくない麻由が茶化したように言う。
「自分でもビックリよ」
「それも相手が高原でしょ?」
元同期の麻由ももちろん高原くんを知っている。
「辞める前に本社行った時すれ違ったけど、あいつ太ったし髪の毛も少し薄くなったでしょ」
「初め見た時高原くんだってわからなかった。くまのぷーさんが来たって思った」
くまのぷーさんに麻由は大爆笑する。

「入社した頃はまだそれなりだったのにね」
「本社もいろいろ大変みたい」

高原くんは朝ごはんを食べた後、帰って行った。
そしてそれからたまにメールが来たりするけど、それだけ。

「つーか、坂井よりずっとマシじゃないの、高原」
「マシって…」
比べるのは高原くんに悪い気がする。
「高原と付き合っちゃえば?」
麻由の言葉にビックリする。

そういう風に考えたことなかった。

「困るよ」
私みたいな女じゃ。
高原くん、見た目はおじさんだけど、いい人だし仕事もできるし。
「そーよね。社内一の惜しいエリートだもんね」
麻由はそう言ったけど、私はなにか違う気がした。