きっかけは残業で二人きりになったことだった。

一部の女子社員から好かれていないとは言っても私は嫌いではなかった。

その頃の私は仕事に慣れ、後輩の指導など任されていた。

だけど一人難しい後輩がいて悩んでいた。

「オマエは間違ってないと俺は思ってる。だからオマエが悩むことなんかない」

その坂井チーフの言葉ですごく気持ちが楽になった。

そして気付いたら好きになっていた。

だけど自他共に認めるマイホームパパなのはよく知っていたから、想いを伝えるなんて有り得なかった。

二人きりの会社の事務所。
不意に奪われる唇。

好きだ。って言われたことないけど、その時からわかった。

その時から私とチーフの秘密の関係は始まった。

初めから私のものではない男。

結婚にも母親になることにも興味は元々なかった。

だけどそう思っていてもツライ気持ちは常に付きまとっていたし、寂しさは増すばかりだった。