「これ、持って帰って」


ガランとした部屋に、そうアタシの声が響いた。


「いらない。勝手に処分していいよ」


アタシが捨てられないことを知りながら、そんなことを言うなんて残酷な人。


「…そんな勝手なこと言わないで」


アタシは無理矢理それを彼のポケットにつっこんだ。


彼はアタシを見ながらため息をはく。




「なぁ、俺たちさ、本当に今日で終わりなのか?」


真っ直ぐとアタシを見つめる彼には、迷いがあった。

言いながら、きっと彼女のことを思っているんだ。


アタシには分かる。

彼がなにを感じているのか。


恋とはまた違う意味で、アタシの会ったこともない彼女を大切にしているか。


「…話し合って決めたことだよ

 いまさら、どうにも出来ないよ
 アタシも社員さんもみんな困る」


別れたくない。


なんて、軽々しく言えない。


それは、アタシはもちろんのこと、彼が一番分かっている。