マイルド・ガールとワイルド・ボーイ

「ハ、ハイ!!」


急に留雨に呼ばれ、私は過剰反応してしまう。


「――――さっき幹居との会話少し聞いちまったんだけど………オレはお前が幹居の傍で笑えるなら、コレ以上嬉しい事は無いから」


留雨の笑顔は…私がよく知ってる、あの笑顔だった。


「オレも琴音もいる事だし…………大丈夫。紀香、いつも笑ってろよ」


留雨―――……


涙が出そうになったのを、必死で耐えた。


「あ、後幹居……」


「え?」


私は留雨が何か連右とコソコソ話してる隙に、琴音にお礼を伝える。


「琴音……ありがとう………」
琴音も笑ってた。


「実はね?…………私今、ちょっとだけ留雨が気になってるの。恋は後って思ってたの、留雨が変えてくれたんだ」


「え―――」


「例え紀香が元留雨の好きな相手だとしても、私にとっても留雨にとっても、紀香は大切な子。アンタ、幸せにならないと怒るからね!!」


琴音の顔はメッチャキラキラしてて……私は感動した。


私の周り…優しい人ばかりだぁ……


「―――だから。じゃあな紀香、幹居!琴音行こう」


連右と話し終わった留雨が琴音と去ってゆくのを、私達は見つめてた。


――――皆、変わってゆくんだ。
私も……留雨も琴音も、夏葉も神蔵君も、それに―――……連右も大切。


連右といるのを選んだのは私自身だから………留雨、琴音、アナタ達の為にも私、前に進むよ。


きっと「いいよ」って、言ってくれるよね?


隣の連右に、ソッと抱き着いた。


「………2人になりたい」


「………分かった……あそこ行くか」


「うん……」


手を取り合い、連右と一緒に目的地に向かって歩き出す。


人を愛する事の喜びと愛される嬉しさが詰まった、あの場所へ。


連右…アナタを好きになれて、好きになって貰えて、


私は、幸せです。
オレの体が熱いのは、照りつける太陽の責かもしれない。


でも心が暖かいのは………紀香が傍にいるからだ。


「ねぇ連右……?」


右手をオレの左手と繋いでる紀香が、上目遣いでオレを見る。


カワイイので、やめて下さい――――あ、やっぱやめないで欲しい。


「何?紀香」


「留雨と…………さっき何話してたの………?」


紀香は遠慮がちに言った。


さっきって、相ケ瀬と田中と出くわして、別れ際に相ケ瀬とチロッと会話した時か。


気になんだな、紀香。


一応恋のライバルだったオレと相ケ瀬が話してんだ。
しかもコソコソと、奪い合った女の目の前で。


気にならない方が、おかしいのかも。


…………教えてやるか。


「相ケ瀬がな……紀香の事“暫く引きずる”って言ってたんだけど、もしかしたら意外と早くフッ切れるかもって」


「へ?」


紀香は意味が分からない様子。


今のじゃ言葉、足りないよな………


「最近田中といると楽しいんだって、アイツ。だからオレの事はもう気にしないで、幹居も紀香も我が道をゆけ――――だってさ」


出来るだけ相ケ瀬が言った事を、そのまま紀香に言ってみたけど………分かったか不安だ。
キチっとこの天然ちゃんに、相ケ瀬の状況が伝わったのか不安で、ジッと紀香を見てみる。


色々考えている様だったが………


「そう……琴音が今、留雨の支えになってるんだね………」


笑みを浮かべながら、そう言った。


分かってんじゃん―――…紀香。


オレはホッとした。


「田中が相ケ瀬をより早く回復……つったら何だけど、笑わせてくれてるんだな。マジでビビったよ」


大真面目に、田中と相ケ瀬が2人でいるの見た時は、最大の驚きがオレを襲った。


よりによって、この2人が――――!?と、心底思った。
けどオレに笑いかける相ケ瀬には、紀香にフラれた時にあった一瞬の陰りは見えなかったんだ。


相ケ瀬も田中も…………何だかほのぼのとしてたっけ。


オレ、素直に嬉しかったぞ?相ケ瀬。


「もしかしたら………もしかするかもな、相ケ瀬と田中――――」


そうなったら……勇じゃないが、羽交い締めで祝ってやろう。


「そうだね……琴音と留雨も、幸せになって欲しいな」


オレの手を強く握りながら、紀香が真っ直ぐな瞳で言った。


“遠慮”は…………消えたと捉えていいみたいだ。


相ケ瀬…田中…2人共、ありがとな………
それからオレ等は暫くお互い無言で歩き、“あそこ”に着いた。


「―――――久し振りに来たな。ここ」


グルリと辺りを見渡す。


熱い体に、癒しの風がソヨソヨと吹いて来る。


気持ちいい……


「あの時以来だね、ここに来たの」


紀香はどこか、遠くの方を見ている。


隣に腰かけた。


「1ヶ月振り―――か?」


「それ位なのに……妙に懐かしい気するよ。何でだろ」


風が紀香の髪を後ろに運ぶ。


少し伸びたな、髪。


「オレも………懐かしい気がする。早かったと思ったんだけどな、1ヶ月間………」
「早いのに懐かしいって……変な気分」


紀香がフフフと笑った。


オレの大好きな、紀香の笑顔。


満面の笑みも、恥ずかしそうにハニかむ笑顔も、皆好きだ。


こんなクサイ事………言えないので、オレだけの秘密にしている。


「色々あったね……ここから始まったんだよね?私達」


紀香の問いに、ただ頷いた。


そう――――……今オレと紀香が来ているのは、例のオレの秘密の場所。


1ヶ月前に紀香に呼ばれて、告白されて、想いが通じ合った、記念の場所…………


オレあの日以来、1度も足を運んで無かったっけ。