「…コハル?」
「あ?ごめん。
ぼやっとしてた。
行ってみようか?」
そして
アタシたちはその店へと入る。
店内はそんなに広くはないけれどディスプレイにはたくさんの種類のマカロンとケーキが陳列されていた。
「見てるだけでも可愛い…っていうか美味しそうっていうか…」
「うん、
甘いいいにおいー」
「ありがとうございましたー」
その声のほうを見るとアタシたちと同じくらいの高校生の女の子が満足そうな顔をして
出て行くところだった。
手元にはここで買ったと思われる赤い小さな袋をさげて。
なに買ったんだろう。
やっぱりバレンタインが近いからプレゼントかな?
いいな。
可愛いな。
そんな彼女の後姿を見ていたら…。
どうしても。
でも。
そうだ。
ギリだからねってことなら。
それなら大丈夫かな。
もし本命だってわかってしまったら。
笑われるか
迷惑がられるか
そのどっちかしかないだろうし。
でもどうしてももう一度、
会うきっかけがほしい。
「スミマセン…、
えっとこのお菓子は…」
アタシは思い切ってスタッフのひとに声をかける。
賞味期限がタイムリミット。
そう、
こないだ買ったお菓子。
今日が賞味期限。
結局連絡できず。
渡すことできず。
その小さな赤い袋は買ったあの日からずっとアタシのカバンに入ったまま。
結局今日も終わろうとしている、
放課後。
ずっと
いつも
何度も
携帯を取り出しては連絡しようとするけれど。
どうしても勇気がなかった。
今日が最後のチャンスだったのに。
それでもできなかった。
もう、
ダメだ。
まあ、
こうなることもある程度予感はしてたけど。
そう思いながらカバンの中にある小さな赤い袋を触る。
「コハル?
今日空いてる?」
アヤカが声をかける。
アタシは慌ててお菓子をカバンの奥に突っ込む。
ぐしゃ。
…なんか鈍い音がした。
袋がつぶれる音?
それより思い切り押し込んだから中のお菓子もつぶれた音?
ヤバいな。
でも何もないフリして答える。
「ん?」
「今朝カラオケの半額券配ってたんもらってん。
今日だけなんやけど空いてたら一緒に行かへんかなーって…」
どうせ渡せないのなら。
アヤカと一緒に過ごしてるほうが気がまぎれる。
そう思ったアタシは二つ返事で答える。
「うん。
かまへんよ?行こ?
どこの店?」
「えーっと…三条木屋町…」
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「面白かったなあ。
でもあの新曲がまだ入ってへんかったんは残念かも」
「うーん、
でもPVはあったしー。
また行こうなー」
機嫌よくそんな話をしながら彼女と店を出て笑いながら歩く。
なんだ、
結構上手に気を紛らせることできるじゃないの、
アタシ。
すごいぞ、
アタシ。
「コハルはこっから何で帰んの?
地下鉄やったら…」
「うーん、
三条より烏丸のほうがええねんけど…。
でも烏丸まで歩くんはしんどいからバスで行くかなー」
「ほしたらアタシもバスやし一緒にバス停まで行こ?」
「うん」
ふたり歩きながら。
木屋町は夜になると雰囲気のある街になる。
高瀬川があるせいなのか。
繁華街のど真ん中を流れる川なのにさらさらととてもキレイな水が流れている。
傍の木々もそれに合わせゆっくり揺れる。
「あーっ!
アタシのバスっ!」
三条河原町にはいったところで突然アヤカが大きな声で叫ぶ。
「早くっ!
走ったら間に合うかも!」
アタシは彼女に走るように促す。
「うん、ありがと!
また明日!」
「ばいばい!」
アタシは彼女の後姿に向かって手を振る。
………。
あれ。
ひとりになった途端に。