維新なんてクソ食らえ後始末が大変でしょ、手代木の巻き

その返事が終わると同時に、水島がいきなり立ち上がって、妹を後ろから抱えて、懐から銃を取り出し突きつけた。


妹は気が動転していた。


水島が低い声で言った。


「手代木さん。

もう、そろそろ本当の所を話してもらえませんか」



「何のことだ。

葵を放せ」



「暗殺計画を漏らしたのはあんたなんだろう」



「水島さん。

何を言っているんだ。

俺が暗殺に関係しているわけないだろう」


「いつまで白を切る気なんだ」



水島は銃を妹にさらに押し付けた。

水島は言った。


「教えてやろう。

影山は俺の弟だ。

弟はあんたのことを信頼していたそれなのにあんたは裏切った」



「証拠はないだろう」


「証拠は、あの騒ぎからあんたが戻るとき、官憲の藤田と一緒だったろう。

あいつは警察の中で裏の仕事をしているんだ。

知らないとでも思ったか」



「それは、偶然だ」



「まだあるぞ。

暗殺の報酬はもらっていないだろう。

それなのに、こいつの病気が西洋の医者に見て貰えることになったよな。

その金はどこから出ているんだ」



手代木は答えに窮した。
水島に隠し事は無理だと悟った。



手代木は言った。



「だったらどうすればいいんだ」



「簡単なことだ。

明日の夜、増上寺の林で待ってるそこで決着をつけよう

それまで、こいつは預かっておく。

警察に知らせたら妹の命は無いと思え」


と言ったかと思うと、水島は口笛を吹いた。


敷地に馬が入ってきた。


水島は馬に葵を乗せてから自分も乗って立ち去った。
次の日の夜になった。


手代木は木刀を持って家を出た。


妹の前で人を殺したくないし、維新が成ってから、武力が無駄なことを悟った。


警察に連絡してはいないが、藤田なら連絡し無くても何かするに違いない。


彼ならいろいろ手を打っているはずだ。



そんなことを考えているうちに約束の場所に着いた。

既に水島は来ていた。


手代木は聞いた。


「葵はどこだ」


「あの木の根元だ」


水島が差した先に気を失って縛られている葵がいた。


水島は刀を抜いた。


手代木も木刀を構えた。


「あの世で弟に謝って貰うぞ」


「君がこの前言っていた『ペンは剣より強し』と言うのは嘘だったのか?

俺を殺しても悪は無くならないぞ」
「これは仇討ちだ。
ペンで仇討ちができるとでもいうのか。

弟の墓前に供えられるのはお前の首しかないんだ」


水島が打ちかかってきた。


手代木は身を交わして避けた。


「手代木。

げるのか。

木刀だからといって容赦しないぞ」

水島は何度か剣をふるってきたが早かった。


手代木はいつまでもかわすことができないと思った。

木刀を腰に当てて居合いの構えをとった。



水島がそれを見て同じように居合いの構えをした。



「手代木。

次で勝負が着くな。

あの世に送ってやるからな」



水島が腰を落とした。


手代木は後ろにパッと下がって間合いを開けた。


水島が少しずつ間合いを詰めてきた。


手代木はまたパッと後ろに下がって間合いを開けた。

水島がニヤリとした。


そして、また少しずつ間合いを詰めてきた。


手代木はまたパッと後ろに下がった。


水島がそれを詰めて前に出た時、手代木は、飛び込んで木刀で水島の胴を抜いた。


水島も刀で手代木に斬りつけた。



手代木が腕に傷を負った。



水島はうずくまっていた。


木の陰から、パチパチと拍手をしながら近づいて来る影があった。


手代木が顔を向けた。


「藤田さんか」


藤田がニヤリとして言った。


「手代木さん。

間合いが近いのを嫌った風に装っていたようだが、あんたの動きは読まれてたぜ。

俺が石を投げつけなかったら、あんたの方がやられていたな。

まだまだ、あんたには働いて貰わないといけないから、こんな所で死なれたら困るんだよ」


頼りになるが、相変わらず口が悪い男だった。


藤田が手で合図すると、林から部下が出てきて水島を縛って連行して行った。


藤田がタバコに火を付けて言った。


「早く、妹の縄を解いてやれ」



手代木が妹をおぶった。

そして家路に着こうとすると、藤田が言った。



「一ついい事を教えておいてやる。

まだ、影山は生きているぞ。

首藤にやられ、死体を始末させられたあの屋敷の下男がまだ息があったヤツを助けたと言っている。

今は傷を治しているようだがその内に現れるかもしれないから気を付けるんだな。

小石に怯むようなやつじゃないし、周到に用意してくるはずだ」


藤田はタバコの息を吐いた。


手代木達を照らす春の月は雲に霞んでいた。

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