手代木の足を先程倒した浪人が掴んだ。
「しまった!」
「放すなよ」
首藤がそう言いながら剣を振り下ろしてきた。
手代木は肩を切られたが、致命傷は避けられた。
中腰で刀を首藤に向けた。
首藤が言った。
「何だその顔は、突きだけだと思っていたのか?
そろそろ、限界みたいだな」
手代木はどうしたら良いのか分からなかった。
「お兄さま。
」
「お兄さま。
これで戦って!
木刀なら思い切りやっても大丈夫です」
手代木は木刀を受け取った。
首藤が笑って言った。
「笑止千万、殺さずか?
だから、今まで逃げていたとでもいうのか」
「刀で世は変わらん。
命を無駄にすることはない」
手代木は立ち上がり、木刀を青眼に構えた。
首藤も構え直した。
「ハーッ」
両者が交差した、同時に爆発が起こった。
首藤の剣が鈍った。
手代木の木刀が首藤の胴に入った。
首藤が崩れ落ちた。
周りが騒がしくなった。
官憲が屋敷に突入してきたようだ。
遠くの方から声がした。
「逃がすな。
一人残らず捕らえろ」
手代木は妹に肩を支えてもらいながら立ち上がった。
藤田が入って来た。
「手代木さん。
ご苦労さま。
おかげで、ここに入る理由ができた。
後の処理は、我々に任せてくれ。
それにしてもだいぶやられたな」
手代木が妹に怪我の手当てをしてもらっていると、水島が来た。
「手代木さん、傷の具合はどうですか」
手代木は着物を着なおしながら言った。
「こんなのかすり傷さ。
それにしても、土岐商会は記事にしたのか、どうなった」
「それが、社長に記事を見せたら、一時預かりになった。
土岐商会は武器類取締法違反とかで社長以下逮捕された。
ところで、まだ寺子屋やるのか?」
「私学の手続きをすればいいそうだ」
「それは、良かった。
それなら、いつでも葵さんに会える」
水島が言った。
「あいつら、内務卿の暗殺未遂事件に関係していたようだ」
手代木は素知らぬ顔で答えた。
「そうなのか」
「あの浪人の中に実行犯がいたようで、今、官憲が調べているらしい。
屋敷が実行現場から一里くらいだから、闇に紛れれば逃げ込めるよな」
手代木は相づちを打った。
「そうだろうな」
その返事が終わると同時に、水島がいきなり立ち上がって、妹を後ろから抱えて、懐から銃を取り出し突きつけた。
妹は気が動転していた。
水島が低い声で言った。
「手代木さん。
もう、そろそろ本当の所を話してもらえませんか」
「何のことだ。
葵を放せ」
「暗殺計画を漏らしたのはあんたなんだろう」
「水島さん。
何を言っているんだ。
俺が暗殺に関係しているわけないだろう」
「いつまで白を切る気なんだ」
水島は銃を妹にさらに押し付けた。
水島は言った。
「教えてやろう。
影山は俺の弟だ。
弟はあんたのことを信頼していたそれなのにあんたは裏切った」
「証拠はないだろう」
「証拠は、あの騒ぎからあんたが戻るとき、官憲の藤田と一緒だったろう。
あいつは警察の中で裏の仕事をしているんだ。
知らないとでも思ったか」
「それは、偶然だ」
「まだあるぞ。
暗殺の報酬はもらっていないだろう。
それなのに、こいつの病気が西洋の医者に見て貰えることになったよな。
その金はどこから出ているんだ」
手代木は答えに窮した。
水島に隠し事は無理だと悟った。
手代木は言った。
「だったらどうすればいいんだ」
「簡単なことだ。
明日の夜、増上寺の林で待ってるそこで決着をつけよう
それまで、こいつは預かっておく。
警察に知らせたら妹の命は無いと思え」
と言ったかと思うと、水島は口笛を吹いた。
敷地に馬が入ってきた。
水島は馬に葵を乗せてから自分も乗って立ち去った。
次の日の夜になった。
手代木は木刀を持って家を出た。
妹の前で人を殺したくないし、維新が成ってから、武力が無駄なことを悟った。
警察に連絡してはいないが、藤田なら連絡し無くても何かするに違いない。
彼ならいろいろ手を打っているはずだ。
そんなことを考えているうちに約束の場所に着いた。